労働者の健康をめぐる国際的な状況
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労働衛生国際協力研究会は、毎年開催される産業衛生学会の自由集会で重要なトピックをとりあげている。また、秋に開催される研究会では、各地域や開催団体と協力しながら、各種話題をとりあげて進めている。表1には年表を示した。以下、ここ数年の主な成果を報告する。

平成12年度
平成13年度
平成14年度
平成15年度
平成16年度
平成17年度
平成18年度
平成19年度

平成12年度
第73回日本産業衛生学会において「アジアにおける労働衛生国際協力を考える」をテーマに自由集会を開催した。また「アジアに見る産業保健マネジメントの新しい動き」と題して小木和孝世話人代表より特別報告が行なわれた。研究会展示ブース企画にも参加し、研究会会員の個々の活動とともに研究会の設立趣旨・活動内容などの紹介を行い、好評であった。第2回研究会集会は8月に東京の日本労働研究機構 LINCホールにおいて「労働安全衛生の実践的アプローチ−アジアにおける多様な取り組みから−」、タイ、フィリピン、ヴェトナムなどで実績をあげている労働安全衛生活動の報告5題の発表が行なわれ活発な討議がなされた。第3回研究会集会は12月に中央労働災害防止協会調査分析センターにおいて開催し、ヴェトナム、中国の作業環境改善などに関する一般演題5題のほか、特別講演としてILOアジア太平洋総局の川上剛氏「アジアにおけるワイズ方式安全衛生トレーニングの最近の進展−ILOの経験から―」、中央労働災害防止協会、常任理事の五十嵐晃一氏「中災防における国際協力」の発表が行われた。

平成13年度
第74回日本産業衛生学会において、産業保健情報システム研究会との合同企画シンポジウムとして「グローバルな産業保健専門職像と教育」を開催した。川上剛氏(ILO)、加藤隆康氏(トヨタ自動車)、金琅昊氏(韓国:蔚山大学医学部)、河野啓子氏(東海大学)、八幡勝也氏(産業医大)ら多彩なシンポジストを迎え、グローバル化の中における産業保健専門職のあり方に関して集中討議を行なった。自由集会ではシンポジウムの内容も受け、松田晋哉氏(産医大)より、「産業保健教育の国際協力−INを用いた双方向性の生涯教育システムの紹介−」を持ち、情報化時代における産業保健教育と今後の国際協力の方向性につき討議を行なった。第2回研究集会は平成13年11月に国際安全衛生センターおいて「健康サーベイランスの実践的進め方」をテーマとし開催した。毛利一平氏(産医研)、川上剛氏(ILO)等の演題を踏まえ、職業疾病情報に関する国際動向の意見交換をすすめた。また、本年度下半期から、「産業発展に関連した女性労働安全衛生指針開発のための研究協力プロジェクト」を関係機関の協力を得て開始し、アジア各国との共同研究作業を進めていく事とした。

平成14年度
昨年に引き続き「産業発展に関連した女性労働安全衛生指針開発のための研究協力プロジェクト」に取り組み、第75回日本産業衛生学会においてその一部としてアジア地域フォーラム(テーマ:アジア地域における産業発展と女性労働者の健康)を開催した。城内博・井谷徹世話人の司会で、アグス・サリム氏 (マレーシア)、ニパナン・ケオラ 氏 (ラオス)、タムセ 氏 (フィリピン)、サリアノ 氏 (フィリピン)、タナカ 千恵子 氏 (産医大)、金琅昊氏(韓国)らのアジア各国研究者を迎え集中討議を行なった。アジア5ヶ国(マレーシア(3名)、ラオス(1)、フィリッピン(2)、韓国(2)、日本(27))からのべ40名以上が参加し盛況であった。9月には前回までの討議結果を受け、集中討議合宿を開催し、ガイドライン作成の草案つくりを行った。第2回研究会集会は平成14年12月に国立オリンピック記念青少年総合センターにおいて開催された。久永直見氏(産医研)「マレーシアの労働衛生事情と日本の役割」、山本美江子氏(産医大)「スウェーデンにおける介護労働の現状」の2演題について討議し、ガイドラインをめぐって、ワークショップ「女性労働に関する労働安全衛生活動指針作り」を行った。今後も、関係機関の協力を得て開始し、アジア各国との共同研究作業を進めていく予定とした。

平成15年度
第76回産衛学会で第2回アジア地域フォーラム(テーマ:働く女性にとって健康な職場の条件 ―どこに力点をおいて支援するか)を開催し、1)タイのNGOであるホームネットのRakawin Leechanavanichpan氏からタイの家内労働者の健康支援を参加型トレーニング方法を用いて進めている話題、2)就労女性健康研究会の荒木葉子氏からスウエーデンで開催された女性ワークショップの内容などを踏まえてジェンダー視点からみた日本女性労働者の労働安全衛生について話題提供を頂いた。その後、3)健康支援のための行動フレーズについて参加型の意見交換会を行い、女性労働者の安全と健康を組み入れた職場改善ガイドライン素案を集中討議した。第2回研究会は平成16年1月に労働科学研究所で開催した。ベトナムカント省保健局労働衛生環境センターのトン・タット・カイ氏から「ベトナムの中小企業における安全衛生マネジメントシステムの現状とILO-OSH 2001の適用状況」の話題提供を受け、近年アジアで急速に普及している安全保健自主マネジメントの動きについて討議した。また、第77回産衛学会のシンポジウムの企画草案つくりや、産医研の毛利氏を中心にした労働衛生国際協力に関わる人材データベースつくりを進めるなど、研究会会員のネットワークを活用した国内外の取り組みもすすめた。

平成16年度
第77回産衛学会(名古屋)のシンポジウムへの企画協力を行い、「アジアにおける産業保健活動」について横山和仁氏(三重医)、城内博(日本大)氏の司会のもと、「アジア諸国の労働衛生対策と日本の国際協力の進歩」(久永直見、産医研・吉川徹、労研)、「ASEAN諸国における労働衛生対策の到達点」(チャラムチャイ・チャキットポーン氏、タイ)、「韓国での産業保健サービスの現状と課題」(朴正鮮氏、韓国)、「国際機関によるアジア地域の産業保健活動支援」(川上剛、ILOタイ)の報告と、指定発言として「アジアにおける産業保健の地域ネットワークの構築」(毛利一平、産医研)、「アジア地域のOSH−MSと自主マネジメントの進展」(小木和孝、労研)を持った。会場からの活発な発言も得られ昨今のアジアにおける産業保健の潮流を確認するシンポジウムとなった。また、自由集会では約30名の参加者を得て、「職業病の過少報告をどう克服するか?」をテーマに日本を含むアジア地域の作業関連疾病と職業病の統計データに関する意見交換が行われた。秋の研究会は「欧・日労働環境の問題点と予防方策」公開ワークショップ実行委員会に協力する形で11月17日に東京で行われ、欧州・日本の職業病統計や過少報告に関して社会学者と産業医学の研究視点の双方から議論が行われた。仏のアニ・デボモニ氏(フランス国立健康医学研究所)、ポール・ジョバン氏(パリ第7大学)、毛利一平氏(産医研)、吉川徹氏(労研)らから話題提供があり、日仏に共通して変化している労働環境とその健康影響と対策について活発な討議が行われた。

平成17年度
第78回日本産業衛生学会(東京)で、山本秀樹氏(岡山大学)を演者に迎え「国際保健医療協力における人材育成について―労働衛生分野での諸課題」として、自由集会を開催した。山本氏らは「わが国の国際協力を担う国内の人材育成及び供給強化並びにキャリアパス拡充のために医学教育が果たすべき役割の研究」を通じて、労働衛生分野における人材育成の諸問題について指摘し、本学会・労働衛生国際協力研究会が取り組むべき課題を提案した。10月には第15回日本産業衛生学会産業医・産業看護全国協議会(広島)にあわせて同会場で秋の集会を開催し、仲尾 豊樹氏(NPO法人 東京労働安全衛生センター)から「作業改善ネットワークWebサイトについて」が報告された。また、平成14年度より継続している「女性労働ガイドライン経過報告と内容の討議」が行われ、その討議結果をうけて2006年3月に船橋のセミナーハウスで会員によるガイドライン作成のための集中討議合宿が行われ、英文による草案が完成した。なお、平成17年11月に職業性呼吸器疾患研究会と合同で、アジア地域のじん肺診断技術向上に資するため、福井大学医学部・日下氏らを中心としたアジア塵肺X線トレーニング講座事業(案)を理事会に提案した。本事業のための国際ワークショップが12月に福井にて開催され、研究会からも参加した。

平成18年度
は第79回産衛学会(仙台)で研究会シンポジウム「アジアに普及するグッドプラクティスアプローチと進出企業」を開催した。久永世話人と毛利世話人の司会のもと、城憲秀氏(中部大学)から「タイにおける自主対応型運動器疾患予防活動に関する国際規格を利用した取り組み」、岩田全充氏(トヨタ自動車)から「海外事業体の安全衛生レベル向上にむけた考え方」、仲尾豊樹氏(東京労働安全衛生センター)から「経済成長期のベトナムにおける地元企業の環境安全保健マネジメントのグッドプラクティス」が報告され、グローバル化の中での新しい産業保健活動の視座について集中討議が行われた。秋の研究会は平成19年1月13日に「外国からの移住・出稼ぎ労働者の労働と健康」をテーマとして名古屋市立大学で40名以上の参加者を迎え行われた。久永直見氏(愛知教育大)「日本・韓国・マレーシア・フィリピンで起きていること」、杉浦裕氏(名古屋労災職業病研究会)「東海地区における移住労働者の健康と安全の課題」、丹羽さゆり氏(名古屋市立大学大学)「外国人雇用企業における労働者の就労状況と健康状態について」の3演題に引き続き、参加者によるグループ討議が行われ、取り組むべき課題が整理された。また、前年度に引き続いて「女性労働者の労働衛生ガイドライン」案を集約し、冊子にまとめて配布した。研究会員およびアジア諸国の協力研究者の意見を求め、最終案にまとめた。

平成19年度
第80回日本産業衛生学会(大阪)の自由集会として第25回研究会を開催した。テーマは「外国からの移住、出稼ぎ労働者の労働と健康」として、日本、韓国、欧州、それぞれの視点から移住労働者に関する課題を取り上げて集中討議した5)。鳥井一平氏(全国統一労働組合)「移住労働者をとりまく日本の現状と取り組み」、金良昊氏(蔚山大学、韓国)「韓国における外国人労働者の健康と安全」、ポール・ジョバン氏(パリ・ディドロ大学、フランス)「産業病の社会的ビジビリティと移民労働者-日欧比較研究から見える課題-」が報告された。総合討議では、移住労働の課題は人権問題であることに各国で関心が高まっており、安全衛生の課題からのアプローチは政府にも、雇用者・労働者共に利益をもたらし、安全衛生は移民労働の課題をブレイクスルーする重要な視点だとまとめられた。また、11月の第17回産業医・産業看護全国協議会のフォーラムTで、フィリピン労働安全衛生センターのドゥルセ・エストレラ‐グスト所長からアジアの産業保健サービスの現状と移住労働者への取り組みが報告され、上記の討議結果を吉川徹(事務局、労働科学研究所)が「移住労働者の労働と健康に関する国内的課題、国際的課題」として報告した。平成20年1月には就労女性健康研究会と合同で「女性労働安全健康チェックリスト」の開発に関して協議を行い、第81回日本産業衛生学会で合同討議を行ってさらに検討していくこととした。また、職業性呼吸器疾患研究会と共に「アジアじん肺読影トレーニング(AIR-Pneumo)」事業に参加し、その推進にILOの後援をえて協力していくこととなった。

 
日本産業衛生学会労働衛生国際協力研究会